古本の価値の難しさたるや

本の価値って難しいですよね。

物の価値っていうのは、基本的にメーカーから出されて最初に売られる場面では「材料費」「加工賃」「人件費」「それぞれ関係した場所の維持費」「消費税」という肉付けで売られている。

 

例えばそうだな、特殊なものだと著作権の工賃が入っていない新潮から出ている「星の王子さま」の文庫が引き合いに出すと面白い本だろうか。あれの文庫版だと装丁(箔押しはかなり高い)と、本文フルカラー印刷代(印刷代が高い)というなかなかリッチな文庫にも関わらず新品が528円だった。それって安いのォ?と思うかもしれない(実際のところ海外小説なので本来それを翻訳していると思うと噛ませている会社が多いから版権切れによってだいぶ安い。しかも人気作だし)。

むむ、そうだな、村上春樹の「羊男のクリスマス」の文庫も引き合いに出してみようかな。あれは確か星の王子さまよりはページ数が少なくて、しかしフルカラーで、表紙に箔などはない。これで660円である。

版権って凄いですね。まあわたしが新刊を買う時は「この本を出してくれてありがとう!またがんばってね!」代だなと思って購入している。サン・テグジュペリは亡くなっているからありがとう代を出しようがないけど、ハルキ・ムラカミは生きてるからね。頑張って欲しい。羊男のクリスマス面白かったよ。

とはいえ本は年々「高いな……」と思うので初手は中古でひとつ買い、かなり良かったなと思ったら新刊を買うようにしている。わたしは、だが。

 

それはおいておいて、第2ラウンド。

「本が中古市場に出された時の価値」について。

これがね、新刊とは全く違う尺で価値がはかられるので面白いです。

装丁がどれだけ凝っていても中古市場では「1円(プラス送料)」などという驚きの評価を受けることがかなりある。少なくとも出版されて2~3年経ったものだと「1円」の悪魔がにじり寄ってくる。

やや脱線するが、「1円」の本は買った時に中古販売元が個人情報を抜きとって取引をキャンセルされるみたいな情報あるじゃないですか。どうなんだろうと思ってこの前恐る恐る買ってみたんですが、ちゃんと送られてきました。「1円」を買う時のポイントとしては他の本がちゃんと1円以外で売られているか、評価はどうなのか、送料はどうか(本1つ送るのにはやや高いかなくらいがいい。目安3~500円くらい。しかし1000円越えは本体価格を安いと思わせるズルい出品の仕方をしている店だ……)、などその辺を気にしていればいいかなと思う。ちなみに1円で買ったのは「もったいない本舗」の本でした。「もったいない本舗」のマーケティング少し好きなんだよね。物を買うともったいない本舗のキャラクターが載ったその月のカレンダーを入れてくれるんですよ。コストが最小限なのにちゃんとその会社でまた買おうかなという気になる仕組みがいやらしくなくて良い。

 

あ、それで話を戻しますが、「1円」になった本はなぜ「1円」なのかという話をしたい。

・一大ブームが起きてめちゃめちゃ売れた結果、皆さんが飽きたタイミングでめちゃめちゃ売られたから全国的に在庫過多(当店だと年1~2冊しか売れないのに30冊くらいある本があり、本当に困っている)。これは大手古本屋とかでもあるやつ。

・店舗のキャパにたいしての冊数が多いのに売れる速度が遅い(1店舗で経営している小さい店舗あるあるです。系列店があるなら「あっちのが売れるから在庫回すか」とかできるけど1店舗だとそれができない)。

・店舗にくるお客さんとのミスマッチ(例えば当店だと大学生と主婦と通院しているご老人はそれなりに来るけど、小さい子は来ないので子供向けの図鑑とか、絵本が売れない……)。

大体こんな理由ですかね。

とはいえ、当店の買取だと「これは1円です」という事はないです。その場合は値段がつかないものとしてお客様が「ちょっといいな」と思っていたら持ち帰れるように案内するか、全く要らないというのであれば処分するかを選んで頂くかんじ。

もらう側としても1円玉もらってもねえ……ってなるでしょ。あと「1円で買い取ったから雑に扱ってもいいや」という意識をスタッフが持たないようにというのもある。ダレてくるとどうしても人間ってそうなってしまうからさ……

で、「買取の1円はわかったけど販売価格1円はなんなのよ?」についてシュルッとうまく逃げようとしていたんですが、これはねえ、当店は1円での販売をしていないからですねえ。

予想しか出来ないけど「倉庫しかない店舗で、その商品が置いてあるくらいなら破格で売って別のことにそのスペースを使いたい」というのがデカいと思いますよ。あとは「損切り」みたいな理由。

もしくはないと思いたいけど、「値段つかないんでこちらで処分しますね〜」と言いタダで入手した本を売ったりとか……そんなような話はちょいちょい聞きますね。

 

あとそうだな、何年経っても1円にはならない本もあるじゃんという話ですがあれは出回った数の少なさですね。例えば「高額である」とか「出版社が小さい」とか「増刷されなかった」とか「増刷はされてるけど教科書指定されがち」とか。あーあと、そういう本をあまり見たことはないけど「よく売れた本ではあるけど、手放す人が少ない」とかね。それ以外の理由で高い本を見たことはないかなあ。

出回った数が少なくて増刷されなくても、1円になる本はあるにはある。出版社が増刷をしなくなってからもさほど需要のない本(例えば時事ネタに関する本はその時期しか旬がない)とか、ファッションに関する本(流行が過ぎてしまえば参考にしづらいからね……)とか、医学書や法律系や資格や就職に関する本も内容がどんどん新しくなっていくので1円本になる。ニッチな医学書であれば別ですけどね。なぜか漢方医療とか鍼灸に関する本は激アツです。資格も「あんまり取らんやろ」みたいな資格の本だと資格を取るのが趣味の人に需要がありますね。

 

ところで、ネットで1円の評価を受けている本も当店で数百円で売っています。ぼったくりって言うな。理由を聞け。

・手に取って中身を見たら欲しくなる本(絵本とか、製本に凝っていてギミックのある本とか、ネットで見ていたら気付かない良さがある本)

・季節的な需要のある本(最新版ではないけど参考書として需要がある本、趣味の入口として使えそうな入門書)

・スタッフが「誰がなんといおうが名著」と判断した本(「なんでこんな本あるのwww」というものは多分だいたいこれ)

・手軽なレシピ本(レシピ本ってネット注文するより、パッとめくって「おいしそ〜今日作ろうかな」くらいの気持ちで買いたくないですか?)

追記するならネットで買った送料を考えるとわりとトントンだし、なによりその場で欲しかったものを得られるのでそれはお得ですよね。

わたし個人としては突発的に欲しくなるようなチャーミングさのある本を1円であろうとよく高値で買い取ってます。レシピも「チーズがジュワァ〜!」「材料ぶち込めばできるお鍋(ホカホカ)」「トーストだけのレシピ本」みたいなやつとかね。もはや写真や挿絵みるだけでも満足できるやつ。

 

なんか大体語り尽くしたかな。

店頭や電話で「どういう本だったら売れますか?」とお問い合わせ頂くことがそこそこあるんですが、「……う〜ん、ざっくりでいいのでどんなジャンルの本をお持ちですか?」と尋ねるのはそんな理由です。ひとことで答えるのが難しいんですよね。

哲学書です!」と言われたら「基本的にはほとんどお値段はつけられるとおもいますよ。ただ、ひとつひとつ査定するので冊数によってはお時間頂くかなと思います。かなり冊数あるようでしたら本棚とかで背表紙のタイトルが確認できる画像お持ち頂ければ」と答えるし、「就活に使ってた本なんですが」と言われたら「基本的に毎年毎年新しい版のものがでるのでお値段をつけられるものは少ないと思いますが、もし処分を前提にということでしたらお持ち込み頂いてお値段つかないものは処分も出来ますので……」となるし、「全集です!」となると「店舗のスペースが小さいので、基本的には難しいかと思います」と答えるかんじかな。

 

ゆうてあれですよ、書店員であるわたしの家の本もほとんど1円本ですよ。1冊だけ3万の本もあるけどそれ以外の本も値段で計れない価値があると思っているので。長野まゆみの河出文芸文庫シリーズとか1円のくせに全然その辺に出回ってないしさ。わたししか欲しいと思ってないのかな。めっちゃ良いのにな。おかしい。