古本屋で働いてしばらく経った。その前からふんわりと古い本が好きだったのとゆるい文学部だったのでそういう知識のベースがある中で古本特有の不思議な価値がある事に気付いたのでそれを書く。
【古本の価値が一定になっている現状】
今どきAmazonや日本の古本屋さんやヤフオクなどで本を売り買いできる。そうなると、ひとつの中古の本の価値というのは大体全て同じくらいになるんじゃないか(ひとつのサイトばかり安いのであればそっちのがよく売れるから他サイトもそれに揃えるだろう)。
実際のところ体感で8~9割くらいはどのサイトも同じくらいの値段だし、色々な古本屋で手に取って見てみると大体価格も同じくらいである。
ぼったくられた〜ということがないのは良いものの、個人的には宝探し感がなくなった事実に少し悲しいものを覚える。
【洋書の価値について】
これは大抵どんな本であるかに関わらず1000円以上になる。
なんとなく何故かわかったんだけど、大体が海外のお店からの配送でそうなると送料がまず1500円くらいかかる。しかも日数もかかる。
もしこの本を国内で売るとなるといずれの本もその内容に関わらず1000~2000円くらいになる。
つまり、内容に価値が比例している訳ではなさそうということだ。
あと、頑張って訳してるのはわかるけど何故か洋書の商品説明に「完璧で完全なコピー」とだけ書いてる出品をよく見る。あれは何?正規品がオンデマンド方式(注文を受けてから印刷する)で出荷しているということなのか、それとも著作権をものともせず全ページコピーして製本したのを出荷してるのか。謎だ。
【1円の本って何?】
先述のネットで販売されている本たちで脅威の1円出品というのがある。1円て。
そういう時は送料と配送方法を見てほしい。ちょっと高くないですか。
本をネット上で販売する時にかかるコストは本の仕入れ値と梱包のひとつひとつにかかる費用と配送にかかる費用と人件費だ。
そういうのを配送料として表示させてあたかも本体がめちゃくちゃお買い得に見えるみたいな売り方をする店がある。あれってなんなんだろうね。いじわるだなぁと思ってしまうんだけど、よっぽど凄い梱包をしてくれるんだろうか。漆塗りの箱に入れて中に桐箱と金粉が散らしてあるとか?わからんね。
一方で、「本当に1円ですが?送料も無料です。」みたいな顔をして商品説明で怪しめな日本語を披露しているものもある。あれは1円とかの本にラッキー♪と思ってしまう人の住所と電話番号をゲットして悪用するヤバい店です。気をつけましょう。
良心的な1円本を売っている店は大抵350~500円くらいの送料です。あと梱包はメルカリくらいの超簡易的なかんじなのでそれは覚悟してほしい。これって手間賃考えたら赤字じゃないの?と思うけど、どういうシステムなんだろうか。
【1円の本の価値】
最初の方で「本の価値は一定になっている」と述べていたんですが、それは店内商品のうちの6~7割程度です。
どういうことよ?ぼったくりかァ?と思われるでしょう。ふたつに分けて説明させてください。
・1円の本は果たして「面白くない」のか
恐ろしいことを言いますが文庫本って、2年も経つと古本としての価値がほぼ1円になります。もちろん学術文庫は除きますが。ハードカバーの文学系の本に関しては文庫本が出た時点で1円です。
「じゃあ、古本屋から価値の薄いこれらの本を全てをなくしましょう。」となるとバカ高ぇ専門書ばかりが並ぶただの倉庫になります。少なくとも「ちょっと立ち寄るか」とはならないはずです。
よって、ネット価格が1円であろうとそれ以上の値段で買い取るし、並べる訳です。「商品の充実」はそれらの1円本によって支えられているのです。
・古き良き古本屋は死んでいない
わたしは個人的には色んな古書店に行って宝探しするのが好きだったんです。店主の趣味がバチバチに反映されているような店がとても好きで、しかしネット上で価格が統一されるようになってそういう良い意味でのアクの強さを持った店が減ったなあとも思います。どの店も軒並みチェーン店みたいになるんじゃないかと恐れていたりもします。
しかしこういう1円本をどこまでこだわって置いているかというところに個々の店の特性がわずかに見えるのです。それがね、いいよね。
本というものは出版するぞとなった時点で少なくとも必ずひとりは 面白い! と評価しているんだから誰からみてもつまらない本はないと思います。だからそういう1円本を拾って並べてあることこそが「古書店を開けている」意味だと思う。インターネットに完全に取って代わられないようにというちょっとした反抗みたいなものです。
【これから古本屋や新刊書店ってどうなるだろうね】
道楽で本を買うってハードルめちゃ高くなっていっている気がする。気が向いた時に気軽に3冊くらいぽいぽいっと本を買えると最高なのにね。
前にどこかで言った気がしますがわたしは試し読みくらいの気持ちで買うのは古本屋で、「いいじゃん!この著者!他の本出してないのかな」と思ったら新刊屋さんで買うようにしています。新品の本が売れてくれなきゃどの著者にも印税が入らないし、そうなると本書いてくれなくなるからスパチャの気持ちで新品を買っている。
しぶしぶ本を買っている人は考えなくてもいいけど、そういう風に己の中での 古本屋と新刊書店の使い分け を考え直してみると面白いよ。
とはいえ本って高いよね。最近入荷した新しめな海外文庫はほとんどが定価1000円越えでした。このまま本は手の届かない嗜好品になるんだろうかね。それもそれで面白いとは思います。
めちゃ昔のフランスでは嗜好品的な製本(1ページずつペーパーナイフで袋とじを開けながら読む本など)をしてバカ高ぇ本を作っていたんですが、そういう美術品と混ざるような価値を持つ本が再興するんじゃないかと。
そしたら京極夏彦の装丁とか良い意味でヤバくなりそうよね。あとSF系の作家で魔術書みたいに光る本作る奴絶対1人はいる。予言しとく。
しかしこの先文庫本がもし1冊4000~5000円とかになったらコーヒーやお菓子片手に読むとか鞄にぶち込んで出かけるとかが出来なくなりそうなのでやっぱり安いに越したことないですね。