喪った夏

惰性で開け放ったままの窓から花火がちょいちょい上がっているのを聞く。

例年であれば家が近かった友達にLINEをして

「祭囃子聞こえね?」

「ね。○○で祭りやってるらしいよ。」

「あーなんかそんな旗が道に立ってたっけね」

「行く?」

「行く」

「わかった。服着る」

みたいなやつをやったのちにダル着で集合してちいちゃい木製の神社のフィギュア(そういうのが売ってる)を買ったり、お子様がつけるキラキラの指輪目当てにくじ引きしてどの指輪にするか真剣に吟味したりするなどの、そう悪くない夏を送っていた。

陽キャ!という訳でもないけど気合を入れて彼氏などと花火大会に行くほど疲れもしないのでちょうどいい温度感で夏を楽しめていたと思う。

 

そんな友人も引っ越してしまってとうとうひとりの夏が来た。

祭囃子が聞こえど、花火が見えど、「札幌 花火 今日」とかをググって ふぅん と思ってはただただ寝そべる。なんのために調べたのだろう。

暑いからね。これほど暑くなければね。いや、暑いという理由だけではあるまいよ。

かつて祭りに着ていったダル着は今はもう外に着ていけない程ヨレヨレになりすっかりパジャマと化してしまった。

あの時に喪った夏はもう取り戻せる気がしないのでこのまま眠ることにする。祭りの音が聞こえなくなるまで。