己の悪癖

爪を噛むとか、髪を引き抜くとか、唇の皮を剥ぐとか、

そういう癖というのは注意はされるものの良いねと言われることはない。

見ないふりをされるのがまぁせいぜい一番マシな扱いである。

 

わたしは指の皮を毟るのが癖だ。

昔から手が大きくて指が長く爪も大きかったので、

「将来ハンドモデルになれるよ」などと周りの大人たちから言われ、手に対してなにか圧力を感じていたのかもしれない。

(ちなみに大人になってもさして手の大きさは変わらなかったのでハンドモデルにはなれないだろう)

それはさておき指の皮を毟ると血がでる。

が、繰り返していると指もむしり取られる生活に慣れるのか皮膚が異様な再生スピードでかつ強靭になってくる。歳を召してくるとかかとの皮膚がカチコチになることがあるけれどもああいうかんじのカチコチさだ。

こうなるとスマホの反応が悪くなる。多分汗腺が死んでいるので湿り気を足さないと本当に反応しない。

これは由々しき事態であると思ってカチコチの指をヤスリで削ることにした。もはや爪を削るためのヤスリを使っている。

すると、指の先が指紋も汗腺もなく完全なるツルツルになることに気付いた。気付いてしまった。

というのもこのプラスチックのような感触がまるで無機物のようで結構好きになってしまったのだ。

ここからは恐ろしいもので、いかにツルツルにするかというように指先をヤスりまくっている。

狂人になった皮膚の分厚さなのか知らないが指先の感覚自体も少し薄いし、指の表面の温度もちょっと低い。それも無機物に近付くようで好ましく思えてきている。

 

今ではブランケット症候群のようにふとした時にツルツルになった指先をスヨスヨと触って落ち着くようになってしまった。

取り返しがつかないだろうなと思いながらも自分の無機質さを確かめるようにスヨスヨしている。

それを誰かに良いねと思われなくともこれが一番今のわたしを落ち着けるひとつの要素になっているのだ。