とんでもない田舎に行きたい

割と田舎だな、という町で育った。

ファミマやロッテリアが無くてみんなしまむら(デカいしまむら一軒しか服屋がない)で服を買っているような田舎だ。

なんなら商店が健在で、近所で二軒の商店が競って店をひらいているのを子供ながらにぼんやりと見ていた。

 

なので、たま〜に「ハァ、帰りたい。」と思うことがある。のだが。

地元に帰っても帰りたい気持ちはなんとなく晴れなくてこれは何事かと思った。

 

その数年後に実家よりもさらに田舎の町に旅行に行った。そこにはホテルが一軒しかなく、コンビニなどはなくて個人商店がぽつぽつとある。この町に来る交通手段はバスだけだ。文房具屋は商店街の端にあり、覗いてみると陽に焼けたスケッチブックや何年も前に廃番になった消しゴムなどがあった。

友人に会う目的でそこに行ったのだけど、会うまでしばらく時間があったのでぽつぽつと散歩をした。

あれは夏場で喉が渇いたので個人商店に入った。当然誰も出てこなくて商品棚もガラガラで、とりあえずポカリを買うことにした。ポカリは銭湯で牛乳を冷やして置くような小さな保冷棚みたいなものに入っていて全然ぬるかった。

レジですみませ〜んというとおばあちゃんが出てきてレジを打ってくれたんだけど、余所者か…という顔で見られて良かった。

ぬるいポカリを多少飲み、レジ袋をちゃぽちゃぽ揺らしながら階段をぐんぐん下っていくと海に出た。急な階段を下ることに手一杯で唐突に海があることに驚いた。海は漁師さんたちが適当に使っているらしく、あんまり海へ近づいてはいけなさそうだったので多分大丈夫だろうなというギリギリのラインを攻めつつ海のへりを歩いた。

しばらく歩くと海岸の端っこになぜかぽつんとガラス張りの古本屋があって、ほとんどの本が陽に焼けて緑っぽい色をしていた。古本屋って本当は本が焼けちゃ品物にならないんだけど、なんかそういうのもいいよね。

そして古本屋を端から端まで見て、小説をひとつ買った。それをポカリと一緒にいれてまたちゃぽんちゃぽんと駅に戻る。駅の近くに噴水のある公園があったからそこで本を読もうと思ったのだ。

道を戻り、噴水のある公園で本を読んだ。白いページが陽を反射して視界が薄緑になる。雪焼けと同じ事なんだろうけどこんな夏場にもそうなるんだなと思った。

ぽつぽつと下校中の学生が見える。知らない生活を背負った学生たちだ。

友人との待ち合わせが近づいたので合流する。

友人と会って今日のことを報告すると、友人は「いい町でしょ。わたしここに来たかったんだ。」と言った。本当にいい町だ。

帰りたい町って結構こういう場所かもしれないなと思った。

ちなみに古本屋については「え!あそこエロ本屋かと思ってた!」と言われた。漫画が多いけど全然普通に古本屋だったよと教えたが普段「エロ本」とか言わない友人だったのでめちゃくちゃ面白かった。

 

次の日、職場まで通勤すると人の流れが慌ただしさやうるささに驚いた。

今でも時々波の音や学生の往来がにぎやかに思えるあの場所に帰りたいと思う。