もしかして:効率厨

幼少期、同い年の子どもたちが歩行している頃わたしはというものの、依然としてつかまり立ちすらせず漫然とはいはいで過ごしていた、らしい。

親にとってあまりにそれが深刻すぎてなにか障害があるのではないかと発達外来に連れて行ったところ「立つ必要性を感じていないんでしょう。至って健康です。」と返されたそうである。

その頃の母子手帳が手元にあるのだが親はかなり怒り狂いながら記録をつけていた様子が伺えた。

 

結局のところ5歳くらいでようやっと歩き始めたのだが他の子どもたちとは歩行に関してのブランクが多大にありスポーツの才が芽吹くことはなかった。しかしスポーツが苦手であっても通知表に頑張りましょうがひとつ確定するだけでこれといって不便なことはなかった。

誰かと闘争して勝ったところで何にもならないからそんなら運動などせずにグラウンドの隅でどんぐりとかレモンの匂いがする花を収穫していた方が得るものがある。

 

そして今だから言うが体育の中でもとりわけ水泳が嫌だった。風呂に入るのすら嫌なのになぜ1時間水に浮遊するためだけに2回も着替えとシャワーをやらなきゃならんのだ。

そういう訳で最後のプールテスト以外全て「はあ、擦りむいてしまって血が出てしまいましたので」とか「朝微熱があったので薬飲んで体温は下がっていますが遠慮したいです」とか「月のものがたまたま」とかそんなんでやり過ごしていた。

プールテストの時は体が浮きすらしなかったため、ひとりで25mを漫然と歩くという妊婦さんが市民プールでやるやつを披露した。

そういうずる休みする奴はわたしの他にクラスにもうひとりいて、その子はどちらかと言うと皆がプールにいてひっそりとした学校を探検したりする背徳感に楽しさを見出したらしかった。

プールを休んだ生徒は2~3枚のプリントをクラスで解かされるくらいの課題しか与えられずかなりヒマなもんである。そのため体育館に誰もいないのを確認して隅から隅まで全力ダッシュしたり、図書室でどっちがより合法的にエロい本を見つけられるかで勝負したりしてヒマを潰した。それがなかなか楽しかった。

 

そういえば運動靴をちょうちょ結びしろというのも「子どもがそれを会得する労力に比べての効果が感じられないな」と思って親に結んでもらったそれを糸で縫い付けて済ますなどした。

固結びよりも解きやすく、その割に歩く時に解けづらいというメリットは確かにわかるがあんなに難しい結び方をする必要があるのかは未だにわからない。ラッピングが趣味になったことでなんとかちょうちょ結びはクリアしたが、どうにかならんのかと未だに思っている。言うほどちょうちょに似てないしな。

 

そして二十歳を越えた頃にようやっと気づいたのだけど、効率厨と言うより「自分にとってそれをするメリット」が明確にわかっていないと根本的にやる気が出ない性格らしい。

なので社員だった頃は新人指導をする時に「先にこのような業務があるのだが、それをしやすくするためにこれをやります」という前提で教える傾向にあった。意外と覚えがそこまで良くないらしい新人は「!」となってスムーズに仕事を覚えることが割と多かった。

それとやる意味がない業務に割かれる時間がもったいないので「それはやりません。その効果を得たいならこうする方がいいので明確にそれをやる意味を提示してください。」と上にずけずけと物申したりしていた。もう少し柔らかな表現ではあるが。

めんどくさい奴かもしれないが、必要な業務は日々変わっていくものだしそれを「ずっとやってるからやる」という理由だけでやるのは全く理解できないからだ。それにより上手いこと業務が進んだ。

 

しかしどの仕事もそうなのだがその職場で得られる知識というのは頭打ちになるタイミングがどこかで必ずある。それ以上覚える必要があることはあるかもしれないが、それが自分の身になると感じられないというのが正確な表現ではある。

そうなるとやがて「得られることがないのに出勤するのは無駄なので転職しよ…」となり、色々な職をふらふらとしている。文房具を売る仕事だったり喫煙具を売る仕事だったりお酒の酌をする仕事だったり。

得られたものはそれなりにあって、それが予想をしない機会に役立つ事もままある。

クレーマーの話を聞く時に本当は何が不満なのかを理解する時はかつてお酒の酌をした客がどんな生きづらさを感じていたか推察するやり方が役に立ったし、忙しくててきぱきと動く必要がある業務は自分がなにかしながら他の人がこれからなにをしようとしているのか考えて次に使う道具を手元に寄せるなどした。

喫煙具屋にたまにくるキマってる客や飲み屋に来たヤクザを思い出せばたまにくる一触即発のお客さんを無難にやり過ごすこともできた。

こうして見ると飲み屋で培ったスキルが一番に立ってるな。

 

そういう訳でそのうち書店からもいなくなると思います。当たり前ですが。

未だに辞めてないのは次に得たい知識がまだ確定してないからなのよね。

なんだろうな、ヤクルトレディでもやろうかな。もしヤクルトレディになったらレモリア好きだから売上1位目指したいですね。あれきっと焼酎で割ってもすっきりしてて美味いと思うんだよな。

まあ、なんかこう、ピンと来る仕事が見つかるまで書店にてご来店お待ちしております。